大トラワイフと門前仲町のはしご酒で「親孝行プレイ」を考える。「魚三酒場」→「角打ち せ・ぼん」篇

大トラワイフと門前仲町のはしご酒で「親孝行プレイ」を考える。「魚三酒場」→「角打ち せ・ぼん」篇
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こんばんは。夜ごと、大酒飲みの大トラワイフに翻弄される私、ハズバンドでございます。結婚3年目。ワイフは根っからの内弁慶であることにそろそろ気づき始めたボキです。幼少期から「ゴン太」(ワイフ実家である大阪弁で利かん坊の意味)と呼ばれたそうで、いまだ両親の前では永遠の反抗期。帰省するたび、派手に繰り広げられる親子げんかの仲裁に入るのは決まってボキの役割。この正月も、取っ組み合い寸前の親子に「皆さんまあまあ、お茶でも飲みましょう!」と鎮火活動にエネルギーを費やす婿なのでありました。

夜からスタート

からスタート

大トラワイフと「門前仲町」のはしご酒

大トラワイフと「門前仲町」のはしご酒
門前仲町駅

ワイフの実家で勃発する親子げんかは、酒を飲み過ぎる娘(ワイフ)、門限を守らない娘(ワイフ)に、両親がお説教をするというところから始まる。素直に詫びてしまえば終わるものを、「三十路もとうに過ぎた大の大人に門限もへったくれもないわ」と言うのが彼女の言い分。「何歳やとおもてんのん。私のこといつまで信用してくれへんのん、もう大人やで、もうちゃんと東京で仕事して生活してんねん!」。ワイフが“東京”というキーワードを持ち出したときは危険だ。苦難に満ちた(満ちてないが)上京物語が、脳内で繰り広げられ、都会の砂漠でひたむきに生きる女の一人芝居が始まる。そんな情緒不安定な娘に、両親はさらに心配を募らせ、「もう君だけが頼みの綱……!」とボキをすがるように見るのである。「親孝行はプレイ」。みうらじゅん先生の名言を今年もワイフに贈りたい。

寺町の老舗酒場で「流儀」を体得するナイト「魚三酒場」

寺町の老舗酒場で「流儀」を体得するナイト「魚三酒場」
魚三酒場 富岡店

で。本日、そんなワイフから「ナカチョウ19じウオサンカモン」という電報のような招集メールが送られてきた。古町、門前仲町を愛する地元民は皆、門前仲町のことを「ナカチョウ」と言うらしい。富岡八幡宮を代表する神社仏閣が佇むこの町は、夜になると独特の厳かな闇に包まれる。大横川を渡る手前の門前一帯には、知る人ぞ知る赤身の名人が寿司を握る海鮮立飲みもあれば、煮込みの名所、横丁など個性溢れる居酒屋が数多ある、というのはボキもテレビや雑誌で知っていた。

「魚三酒場」は昭和29年創業。ナカチョウきっての名酒場だ。カウンター席の1階から2階以上は宴会用の座敷があるビルだ。夕方4時の開店前には年末ジャンボ宝くじ売り場のごとし行列が出来る。酔っ払いご免、飲まない食わないおしゃべりばかりのお客もご免という暗黙のルールもあるらしい。特に1階では戦場のような忙しさ。ストイックな仕事ぶりの割烹着の兄貴とおばちゃん連中を前にすると緊張感がほとばしると評判である。 「百戦錬磨の飲んべえでも、『ばあさん(女将)がおっかなくていつもちびりそうになる』ってな」とワイフが言う。この町で、その名物女将を知らない人はいない……そうだ。

まずは「魚三酒場」でこの町で飲む流儀を体得せよということのようだ。本来もっとも混雑している時間帯ではあるが、運良く入れ替わりでカウンターに座ることができた。皆、肩をきつきつに触れ合わせながら飲んでいる。壁にびっしり貼られた達筆な品書きを見て驚いた。ありとあらゆる魚料理、それも刺身も300円台が主流、煮物も揚げ物もないものがナイ!というくらいお魚好きのハートをわしづかみ。夢のようだ。圧巻の短冊景にしばし見とれていると、「生ビールとお酒と、寒ブリ刺しと赤貝刺身をくださいっ」とワイフが兄貴に声を張る。「ここは世間と時空が違うんだ。うっとりしてる時間などない。間髪開けずに飲んで食べる。で小一時間でほろ酔ってしかと退散する。これが粋なナカチョウルール」。お向かいのおじさんは大きな魚のお頭を黙々と食べ、向かいの姉さんは山盛りの中落ち(310円)と熱燗をペース良く飲んでいる。皆、お隣さんと会話をエンジョイしながらも、箸もグラスもなかなかのピッチで動いている。酔っぱらってしまったじいさんは、半ば強制的にお会計だ。

酒は、大徳利からダイナミックにコップに注がれる。なんだか、ひよっこなボキもまるで豪傑の男になったような気分だ。

赤貝もブリもまず盛りの良さに驚き、新鮮さにうち震えた。アテがなくなる前に、ワイフがすかさずボキの大好物である「あじフライ」と、謎の「スペシャル」なるものを注文した。さくさくに揚がったフライに悶絶しながら、表面張力のお酒がすいすいすすむ。ふだん、日本酒を飲むとすぐに目が回るボキは、純米大吟醸しか飲めなくて……、とまあまあ鼻につくキャラを気取っている。しかし魚三は、大関400円、白鹿ます酒400円、生酒600円の他に、じゃんじゃん出るのはただの「お酒」190円だ。古き良き居酒屋ならではの躍動感には、この一本気で無骨な味が一番合うのだ。

「初めてここに来た時は、もの凄くビビった」とワイフが言う。「白髪をオールバックにしたコワモテの貫禄のばあさんが采配していて、還暦のおっさんたちもばあさんに睨まれるとシュンとなるんだ。でもそんなばあさんのお陰で、待つ人が一人でも多く入れる。旨い魚が食べられる」。先代がその昔、魚屋を営んでいたことから目利きは確か、魚屋の気概を忘れずに酒場の暖簾を掲げているってことか…。 ♩たこぶつ260円、ほっき貝400円、〆さば380円、あじ酢280円、ほや酢300円……ワイフが歌うように読み上げる。ごきげんになるペースがいつもの三倍速。なるほど時空が違う。

して、最後に登場した「スペシャル」は、予想外のものだった。丼には卵に豆腐、蛤など具がたっぷり入った塩だしベースのスープは400円で、五臓六腑にしみわたる味わいだった。

「最初は刺身、次は揚げ物か煮魚、酢の物をはさんでしめには汁ものを頼むって流れはここでおのずと覚えたんだ。ふつうの店ではなかなかそうはいかない」とワイフ。女将が目力で推奨する体にもっともいい飲み方なのだろう。ふと、隣のおじさんが、「久しぶりに来たんだけど女将いないね。元気にしてる?」「元気ですよ」と兄貴が当たり前のこと聞くなというふうに言う。「いないといないで寂しいから」。隣でワイフが頷きながら、「酔っ払いは、怒られたい生き物なんだ。コワいコワいが、くせになる。それがここの最たる魅力」と言う。お会計はふたりで3000円ちょっとだった。店を出ると、「ばあさんが生きてるってわかって良かったぜ」とワイフ。ボキは伝説のコワモテばあさんを想像しながら、会いたかったような、会わずにすんでほっとしたような気分。

末っ子店主が営む名酒が揃う角打ち“倉庫”「角打ち せ・ぼん」

末っ子店主が営む名酒が揃う角打ち“倉庫”「角打ち せ・ぼん」
角打ち せ・ぼん

「さあ、次は新規開拓だ」と言って、ワイフがずんずん進むのは、暗闇の巴橋であった。渡った先に、地元の人から聞いた目当ての店があるらしい。しかし、店の住所にたどり着くや否やふたりで立ち尽くした。どう見ても、ガレージだ。中の電灯がついているのはわかるが、間口から様子を見ることはできない。かろうじて外に小さなメニュー表はある。ものすごく、入りにくい。「……よし、ユーから先にゴー」。例によってボキの背中をたたき扉を開けさせる。「こんばん、は……?」第一感、あれ?と思った。なんだかがらんとしているのだ。飲み屋っぽくない。やけに天井が高いのはやはり倉庫だからだ。「いらっしゃいませ〜」にこやかに微笑みかけるおじさん。店内には折りたたみのウッド調テーブルが置かれていて、常連らしき人々がのどかに飲んでいた。

壁一面にずらりと並ぶ日本酒(主に「而今」)は圧巻だが、料理の品数は少ない。いくらおろし360円に自家製塩からなどがボードに書かれている。ビールの大瓶(480円)を注文しながら、様子を伺う。大きなテーブルで飲んでるおっちゃんのひざには、ぬいぐるみのようにおとなしい小型犬がいた。「ハッピー」と言うらしい。

「ハッピーは女の子。おとなしくっていい子なのよ」と店主が言う。「そ。ハッピー、可愛いでしょう」とジャンパーを着た飼い主は、ここで希少な日本酒の一升瓶を予約したばかりだそうでテンションが高い。上品なハッピーと違ってよくしゃべる。先刻の「魚三酒場」と対局にある、じつに自由で緊張感のない(いい意味で)空間だ。

「ここはどんな店なんですか?」とワイフが丸投げ感溢れる質問をできたのも、フリーダムな店主のおかげだろう。「うちは酒屋さんなの。ここは倉庫なんだけど、夕方まで配達したあと暇になっちゃうから、じゃあ夜は試飲をかねて飲みどころにしようって。2年前に始めたんですよ」「ああなるほど〜」と頷く我々。地酒は100CCが310円から高くても570円という安さである。「日本酒は、ご要望があればなるべく頑張って取り寄せます。僕は『而今』が一番好きなんですが、『鍋島』もこの冬がすごくいいのがありましてねえ」。店主はくったくがない。衝撃の真実を知ったのはそのあとのことである。

店主が言う「大人のカルピスです」という「而今」の濁り酒を飲みながら、青唐味噌つきの鴨のスモークとたぬきやっこを食べた。派手さはないが、日本酒にほっこり和む肴たちである。「代々酒屋さんなんですか」という何気ないワイフの問いに、「いいえ、違うんですよ」と店主。

自分は長らくサラリーマンをしたのち、母方の実家が居酒屋だったことから、その世界に通じており、脱サラをして開業したのだと言う。「へえ、居酒屋さんですか。まだお店はあるんですか」「ええ、門前仲町に」「どこですか?」「魚三酒場って言うんですけどね」。ワイフとともに半腰を上げた。「……ウオサン、ですか。あの女将が名物の」「ええ、さっきまでここで飲んでました。最近は開店から二時間ほど店に出て、あとはうちに来て晩酌です。あはは」。常連客が言う。「女将は毎晩ここにいるよ。ここで飲みながら、いっつも言うの。『末っ子は可愛いからねえ』って」。ここ「せ・ぼん」の店主は、魚三の末っ子だった……。「せっかく酒屋になったんだから、実家にも旨い日本酒入れようと思ったんだけど。母親が、魚三は今のままでいいんだって。そこだけは一歩も引かないんです」と面白そうに笑った。

コワモテばあさんが、ほっこり目を細めてくつろぐ場所があったんだ……とワイフが低い声でつぶやいた。それはあまりに意外で少し感動的でさえあるようだった。にこにこ顔の店主が言う。「毎年、日本酒の蔵元を巡る旅行をやってるんです。良かったらぜひ」「どんなツアーで?」と聞くと、道中からドライバー以外は車内で乾杯し、蔵元見学をし、そのあと温泉宿では店主が持ち込む一升瓶のお酒を飲み放題だというまさかの一泊四食付きツアー。「僕は毎年ドライバー役なんですよ。定員6人だから、すぐうまっちゃうんですけどね」6人……ですか。店もイベントも、まったく気負いがないのがすてきだと思った。とどめは、「店は20時までなんだけど、20時に来られた場合は、20時45分まで延長します」。これが「末っ子」なのかもしれない。愛情に包まれてのびのびと育ってきたのだろう。ワイフも末っ子だ。だいぶ荒くれだった末っ子だが、根が自由奔放というところはおんなじだ。

エピローグ(巴橋→門前仲町駅へ)

エピローグ(巴橋→門前仲町駅へ)
門前仲町駅

家に帰ると、ボキの静岡の実家から送られてきたみかんをワイフが机の上にどっさり出してきた。庭になった段ボールいっぱいの不揃いのみかんは、なんとなく食べる気にならずそのままにしてあった。中にはもうカビてるものもある。「友達や職場で配るだ」というおかんの電話に生返事をしていると、「形がぶさいくだから人にあげられんだら」と笑い、「ならよしえさんと仲良く食べな」と電話を切った。

その話をするとワイフはボキに「なぜ会社に持っていかない」と怒りながら、一人でせっせと食べていたのだ。血のつながらない親には優しくできるワイフである。「せ・ぼんのマスターみたく、親孝行プレイで脱サラして店を始める人間がいるんだ。みかんを段ボールいっぱい食べるくらいなんてこたあないだろ」とワイフ。同じ言葉を返してやりたい。「今からおとんとおかんにメールを書く」とワイフがパソコンを開いた。おお、正月の暴君ぶりを詫びるのか、いい心構えだ。と思ったら、『父、母へ。お仕事の発注です。このたび大阪に関する以下の資料が必要になりました。図書館で構いませんので資料収集の上、東京へお送りください。尚、ネット情報は不可です。地元ならでは濃い情報をお待ちしております。締め切り一週間後で何卒。』。そっこーで返事が来た。『ゴン太様。調査の件、了解! おとんにまっかせなさ〜い』。子が子なら、親も親だ。「ご隠居さんにお仕事をあげる。これぞ、最高の親孝行プレイだ」ワイフが勝ち誇ったように言った。いつだって振り回され損なボキであった。

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Finish! Nice outing!

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