大酒飲みのワイフとミラクルムーンのはしご酒。「加島酒店」→「魚平」篇

大酒飲みのワイフとミラクルムーンのはしご酒。「加島酒店」→「魚平」篇
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こんばんは。日々、大酒飲みのワイフはしご酒に連行される、私ハズバンドです。サラリーマン生活10年目、中間管理職です。と言うとそこそこ聞こえはいいかもしれないけれど、悩み多いお年頃。皆さんならきっとおわかりいただけるでしょう。公私ともに想像していた未来と違うボキです。一方、大トラワイフは、満月の夜に宇宙エネルギーを充填し、さらなるパワーを炸裂させます。先日の“ミラクルムーン”てやつです。あいにく都内は曇り空ではありましたが、紺碧の夜空にきっと浮かんでいるであろう奇跡のムーンに、ワイフは遠吠えをしながらどらどらと人形町の町にやってきたのであります。

夜からスタート

からスタート

下町情緒を感じられる「人形町駅」

下町情緒を感じられる「人形町駅」
人形町駅

「メンノン(男性ファッション誌「メンズノンノ」)時代からお慕い申し上げていた阿部寛サマ主演のドラマ『新参者』の舞台、人形町なのだ」と、ワイフは鼻の穴を大きく広げ、人形町交叉点で待ち構えていた。大通り沿いに立つと、水天宮が祀られた由緒正しき歴史の町といまひとつピンと来ないのだけど、どらどら歩くワイフの後ろを行くうちに、渋い銭湯もあれば、細い路地にお好み焼き屋などの赤提灯や植木なんかに下町の情緒を感じるボキ。ちなみに水天宮は安産祈願に訪れる人が多い。「御子守帯(みすずおび)」というお腹に巻くお守りを、アメリカ人と結婚し、現地で妊娠をひかえていたワイフの姉に送ったところ、「ありがとう! 寝室の壁にカッコよく飾っているよ♩」トラがトラなら姉も姉だ。お腹に巻く安産守りをペナントにするなんでまともな感覚じゃない。

JAPANアートな 老舗角うちへ 「加島酒店」

JAPANアートな 老舗角うちへ 「加島酒店」
加島酒店

さて、今宵ワイフがまっしぐらに飛び込んだのは、「加島酒店」というじつに味わいのある酒屋だった。老舗の角打ちである。

表には、時代を感じる金の立体文字で「酒の中の酒 キンシ正宗」というカッコいい看板。

一見、雑然と卓が設置された店内だけど、一朝一夕には出来ない年季が刻まれていて、磨き抜かれた木の柱や茶褐色の棚は、もはやJAPAN酒屋アートと言えるだろう。スーツを着た馴染みの諸先輩方でほぼ埋まっている店内、建物に相応しく、若い居酒屋のように嬌声をあげる人はいない。皆、しゅくしゅくと飲み、小声で語らい品ある感じで笑い合う。冷蔵庫には栓を抜きたての一升瓶。缶ビールなんかも飲めるけれども、ワイフが「生ビールください。ふつうサイズのと小さいサイズのを一つずつ」と注文する。「はいよ」と言いながら、風情を感じる店主が生ビールを注いでくれる。角打ちで生ビールが飲めるとは感激だ。

皆、日本酒を店主に注いでもらいながら、「うまいねえ」と口々に言い飲んでいる。テーブルは、瓶ビールのケースを三つ重ねた上に板を乗せたシンプルかつ合理的な作だ。乾きもののつまみは、ラックにずらりとぶらさがって並んでいる。コンビニではあまり見かけないものばかりで、「北海道産ほたて貝使用 キムチ貝ひも」に「まるごと骨まで旨い ししゃもの薫製」白ワインで仕込んだという、「ワイン銀たら」など、絶妙なキーワードでついてくる。「いちいち気にセレクトよのう〜」とワイフが声に出して読み上げる。乾きものなどどれも一緒だと思ってきた己の価値観を覆されるおもいだ。何しろ、もちろん駄菓子屋価格ではないが200円ぐらいから選べる。昨今、立飲み屋でもちょっとおしゃれな缶詰だと500円以上することが多く、ここは良心的と言えるだろう。

ビールで下地を作ったあとは、ワイフはワイン、ボキは日本酒を注文。コップの表面がもっこりと盛り上がる表面張力ぎりぎりの一杯が登場した。一滴たりともこぼさない意気込みで、ワイフが口を寄せる顔が真剣過ぎてものすごく怖い。「ユーもこぼすなよ」と言いながら、ボキの手元を凝視する。

和やかに、店主と客が語らっている。「はいはい、私も行きましたよ、テストねえ」。どうやら車の免許の更新話らしい。常連客が、「もう俺なんか年だからさあ、ぜんぜんダメよ」と言うのに、店主が、自分の(運転や運動)能力テストはまだ三十代という評価だったとけろりと話している。

店主の実年齢は五十代、六十代……だろうか、素晴らしい運動神経だとまじまじ眺めながら、彼の定位置、いわゆる番台に異様な景色が見えた。百円玉、五十円玉、十円玉。小銭のはんぱない山だ。机から落っこちないか心配だし、いったい何のためにそこにあるのかわからない。と思ったら釣り銭をそこから取って渡している。フェスの屋台じゃあるまいし、そんなにスタンバイさせることはないだろう。「そのお金の山は……」とボキが聞くと、「ん? 自販機のやつよ」。……つまみのセンスは繊細でも、コインに関してはとてつもなくおおらかな扱いだった。店主の目を盗み、小銭の山に手を伸ばすような不届き者はこの町にはいない。そんな安全地帯の証明だとボキは思った。四代目という店主が守るこの建物は、昭和3年に建て替えたものだそうだ。ということは店の歴史はさらに遡る。関東大震災を乗り越え、戦火からも守られた角打ちなのだ。

ニューカマーも中堅も 絶賛奮闘中の人形町 「魚平」

ニューカマーも中堅も 絶賛奮闘中の人形町 「魚平」
立呑み 魚平

二軒目は、「人形町っぽくない、でもある意味人形町っぽい、立飲みがあるんだ♩」とワイフに連れられてやってきた「魚平」。

ワイフが、この町ではニューカマーのほうだが、頑張り度はなかなかなんだぜと言いながら、壁に沿った奥行きの狭いカウンターで、チューハイと生ビール(450円)、それにアジの刺身(200円)を頼む。ショウガにネギ、たっぷりの若布が添えられた一皿だ。タコや貝ヒモ、マグロにイナダなんかの刺身が勢揃いで、高くても300円(定番メニューはほぼ200円と激安。『毎日築地直送 新鮮刺身』とある。とても若い“店主”からは一所懸命さが伝わってくる。疑うことをしらない瞳の輝き。

ボキはその若い彼を見ながら、唐突に数週間前の苦い出来事を思い出してしまった。済んだ話だった。忘れたかったし、忘れようとしてたし、事実忘れかけていた。僕のプロジェクトでクレームが出た。みかんと書くか、ミカンと書くか程度の行き違いだったが、直接担当していた若手の凡ミスだった。ここのカウンターに立つ彼と同世代、やっぱりきらきら瞳を輝かせる張り切りボーイだ。対外的な窓口が、その彼というのは皆の知るところでボキは正直逃げられる。と思った。一緒にクライアントに菓子折りを持って詫びに行き、彼には慰めの酒を一杯奢って、それで済む程度の話。だってじぶんのあずかり知らぬところでの事故だったから。「失敗なんて確率の問題さ。たくさん仕事を抱えてる人間ほど、必然的に失敗の数が多くなるんだよ」と慰めていい気分になっていた。

なぜその事を思い出したか。ワイフがじっと見上げる一枚の短冊だ。……あの蔵の日本酒だ! その昔、まだ彼女とボキがただの仕事仲間だった頃の話だ。一緒に千葉にあるその蔵元見学に行ったことがあった。試飲で早々に酔っぱらったワイフは旨い旨いと飲みすすめながら、蔵人に質問を重ね意気込んで中を見て回った。本当に楽しかったのだろう。彼女が書き上げた「愛と涙の感動の酒蔵探訪ルポ」は、編集担当のボキが読んでも喜びに溢れていた。

地元に伝わる浦島太郎伝説なんかも盛り込まれていたちょっととんちんかんなコラムだった。それを確認した蔵元からはおしかりを受けてしまった。真摯で硬派な正しさを求められる世界では、ワイフのようなフリーダムなテンションは、敬遠されるのかもしれない。で、そのときボキはどうしたんだっけ……。「マスター、お酒お替わり」「あとハムカツ〜」とあちこちから注文が飛ぶ満員状態の店内、若い“店主”は一人で揚げ物も刺し盛りも酒の給仕もにこにことさばいている。

ハコが小さい立飲みとはいえ、メニューの種類は結構なものだし、もうかれこれ3時間飲んでいるというグループもいた。居心地がいいのだ。刺身を食べながらワイフが言う。「あの時(蔵元から怒られた時)はふてくされていたけど。ユーが骨の折れる、心も折れるフォロー(謝罪)をしてくれたのを覚えてる。年下のくせに頼もしいやつだと思った」。ああそうだった。ボキもひたすらまっしぐら時代だったんだ。誰かを守るとか自分を守るとか、そんなことを思っている余裕なんかなく、ただ夢中だったのだ。失敗は互いのものとものすごくピュアーに信じていた。きっと、当時のボキの瞳も、きらきらしてたはずだ。ホッピーをごくごく飲みながら、自分はいつ頃から濁っちまったんだ……と思う。

「ここはいつからやってるんですか」とワイフが“店主”に聞くと、「4年くらいかな。もうちょっとかなあ」「え……君が店長さんじゃないの」とボキ。「違います。マスターはちゃんと別にいます。でも任されてるんです。料理も簡単なのは一通り出来るようになって」と言う瞳はやっぱりきらめいていた。このヤングマンに全幅の信頼をおき、店をまかせきっている親方はある意味すごい。上に立つものの英断というやつに下の人間は育てられるということか……。

ホッピーをおかわりし、「鮮魚のフライ」(200円)を注文する。この日はアジのフライだった。これが驚きの美味さだった。きつね色のサクサクの衣にふわっと包まれた白身。ソースをかけるのももったいないほどのできばえだ。「お兄さん、フライ最高です!」とボキとワイフが口々に言いエールを送った。

【エピローグ】「筑前屋」

【エピローグ】「筑前屋」
筑前屋

色んな思いが交錯し、いつになく先に出来上がってしまったボキが、「もう一軒!」と提案した。ミラクルムーンで今夜は眠れそうにないぜ!というワイフと行き当たりばったりで見つけた、新しい路地角の居酒屋「筑前屋」に入った。古民家風の一軒だ。もとは鰻屋さんだったらしいが、レトロな内装はおそらく演出だろう。男子飯をテーマにしているのかメガ盛りのメニューが人気らしい。二人で生ビールとレバテキを頼んだ。今、古き良き人形町の町には「新参者」の店が増えているようだ。先達が築いたヒストリアな土地に、根を下ろすのは容易ではないだろう。戦うこともあるだろう。まもられることもあるだろう。失敗も重ねながら一日一日暖簾をあげるしかない。

「あの日本酒の蔵元、また遊びに行くべ」と言いながら、ビールのヒゲをつけるワイフ。「案外、ピンチな時に助けてもらったことは、海馬に刻印されて忘れたくても忘れられないもんだな」この傍若無人な輩が言うのだから本当だろう。「レバテキ、旨い。生もう一杯!」とボキが言う。新参のこの店を応援しようという気持ちだ。そして翌日、ボキは若手の後輩らに言った。「フレッシャーズの皆さん、自分が信じる仕事を怖がることなく思う存分にやって下さい。もし何か失敗したらミドルエイジ代表、でも心は永遠の二十歳!の僕が全力でフォローしますだ!」

新参でも古参でもない。ミディアム世代の中間管理職は、責任を取ることができる。そこが面白いんだ、きっと。

Finish! Nice outing!

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