【はしご酒】「二日酔いは飲んで直す」ワイフと夫の哀愁ハシゴ酒。永遠の反抗期妻と私ハズバンド。「うけもち」→「魚升」篇。

【はしご酒】「二日酔いは飲んで直す」ワイフと夫の哀愁ハシゴ酒。永遠の反抗期妻と私ハズバンド。「うけもち」→「魚升」篇。
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酒豪な年上妻と結婚して3年目の34歳ハズバンドです。近頃、ますますお酒に弱くなり、二日酔いとお友達のボキです。大トラのワイフの自慢は、生まれ持った強靭な肝臓でもって二日酔い知らずなこと。彼女はボキが帰る前にはすでに「乾杯の練習」を開始し、ハシゴ酒のウォーミングUPをしています。たとえ万が一、二日酔いの日であったとしても、冷え冷えの迎え酒ビアで完治する、という持論を展開します。親の顔が見てみたい……!と思わずにはいられません。や、あの、一応義父母なんでよく知ってるんですけどね。とくに、彼女の父ヒロシは、幼い頃から暴君な娘をいまだに懐柔できないようで、言いにくいことはボキ宛にメールを送ってきます。『よしえに酒飲まんようにゆうてくれへんか?』とか、『飲んでもビールは3缶までやで!』とか。ボキはそんなときこう返します。『お父さん、ご安心ください。よしえさんはもうお酒なんか飲みませんよ』。神よ。家庭の平和のため、嘘をつくボキをあなたは裁かれますか! アーメン!

夜からスタート

からスタート

中央・総武線と東京メトロが乗り入れる水道橋駅・西口

中央・総武線と東京メトロが乗り入れる水道橋駅・西口
水道橋駅

今夜、「残業なんてナンセンス!」とワイフから傍若無人なメールが入ったため、作業も途中にこそこそ社をあとにしボキ。向かったのは中央・総武線と東京メトロが乗り入れる水道橋駅からほど近い名立飲み「うけもち」であった。

超新鮮魚介が食べられる300円立ち飲みで地元リーマンと邂逅する、「うけもち」

超新鮮魚介が食べられる300円立ち飲みで地元リーマンと邂逅する、「うけもち」
うけもち

大通りから人気ない路地に入り、店を探しながら歩いていると、「お〜い」というワイフの低い声が夜道に響いた。見ると店の軒先で卓を囲み、見知らぬサラリーマン2人組にまじってほろ酔っているではないか。「おやおやカレシの登場かい〜」と冷やかすおじさんに、ワイフが「ちがいますようぉ」とくねくね言う。や、やめろ、くねくねはやめろ! 夫ですと名乗るタイミングも逃し、何か“トモダチ以上恋人未満”的な意味深な設定のまま僕もおじさんチームとジョインすることになってしまった。

ここの大将は、かつて築地で働いていた経験があり魚介の目利きは抜群らしい。料理もお酒も300円均一で、「2人で10品頼むなら、3000円のカードを買うといいよ。一つ注文するごとにスタンプを押してお会計。300円分得になるの」すぐ近くにオフィスがあるという彼らは、仕事が終わると割り勘でこのカードを買い、2〜3杯ずつ飲んで帰るらしい。「鮮魚も貝も旨いけど、ここは松前漬けやイナゴの佃煮なんて珍味もあるんだよ」というおじさんは、さっきから丸々したイカの肝和えを独り占めしている。

中に入ると、ガラスケースの中につまみの三点盛り(笹かまや卵焼き)から、貝、魚の刺身が小皿に盛りつけられて並んでいる。その奥で、分厚いまな板の上で一心不乱に大きな鰹をさばいているのが大将だ。男らしい横顔と思わず見とれる雄々しい包丁づかい。外は外で風が気持ちいいが、中は出来立ての刺身が随時チェックできるメリットがある。僕は生ビールと、山盛りのスパゲッティサラダを手に取り、鰹も注文しておいた。

ワイフは数十分前に会ったばかりのおじさんたちとフレンド化していた。彼女はある意味、外面的には大変な「聞き上手」だ。人様の仕事の苦悩、身内のトラブル、恋の悩みを聞くのを生き甲斐としている。 「だって宴席に、人生どん底で悩んでるやつが一人いたら、その話だけで極上の酒のアテだろ」。悪魔……。これを悪魔というのだろう。善良な市民たちに対して、「親しみやすく何でも話せる八百屋の奥さん」風に成りすまし、語りを誘導、最終的には人様の不幸に、これといった励ましもせず、「酒が旨くなるいい話だなア〜」と喜んでいる。旨し旨しとスパゲッティを競い合いながら食べているさなかであった。おじさんが「聞いてくれる。今我家はモンダイ勃発で悩んでるのよ〜。単身赴任時代は楽しかったなー」と言う。彼は地方に何年か赴任したのち久々に家族のもとに帰ると、希望の星である愛息が反抗期に突入、学校に行かない宣言をしていたのだと言う。

予想通り、ワイフの目が燦然と輝きだした。彼は続ける。「昔は息子とキャンピングカーで旅にも行ったのよ。僕と似たイイ男でさあ」。それに相棒が、「ケケケ! じぶんと似たイイ男だって〜」と茶々を入れる。二人の世代は一回りも違うが、会社を出るとこうして飲み仲間になるらしかった。おじさんの苦悩は、そんな息子への対応をめぐり、夫婦で対立していることのようだ。

「学校って行かなくなると、どんどん行きにくくなるからねえ」とおじさんの相棒が言う。ワイフが隣でうむうむ頷いている。「あ、カレシは泡盛とか焼酎好き? ここはじぶんでグラスに注げるの。目一杯入れられるよ」と言う。僕は、妻のビールのお替わりと、甕からたっぷり注いだ泡盛を持って第二ラウンドに突入した。一升瓶の焼酎も手酌で注ぐシステムだ。くう〜、泡盛が胃袋に染み渡るぜい。いいタイミングで鰹の分厚い刺身も運ばれて来た。じつにフレッシュ! 赤く締まった身が舌でとろける。ワイフはおじさんトークに耳を傾けながらも、鰹を食べさらに目をぎらつかせる。

「じつは……わたしも反抗期で引きこもった時期がありましてね」。出た。ワイフの“自腹打ち明け話”でさらに人様の悩みを引き出す秘技だ。しかし引きこもりは真っ赤な嘘というわけではない。彼女は十代の頃、関西から東北へ父ヒロシの転勤で引っ越したことがある。方言が通じない異郷で、友がなかなか出来ず、転勤族のヒロシをうらんだと語る。「学校行きたないって言うと、オカンは『わかった。けど一回行ってしんどかったら帰っといで』と言って毎朝彼女を送り出したそうだ。だから具体的に引きこもったのは最長でも半日だが、オカンの思いやりをいいことに遅刻と早退を気ままに繰り返した十代だったらしい。

おじさんたちのスタンプカードがなくなったようだ。今宵行きずりで相席になった僕らとの話がノッて来たのか帰る気配はなく、そのうち若い相棒の方が独身生活の悩みを語り出し、「2年も彼女いないの。家庭があるだけいいっすよ〜」と遠くを見る。追加したサザエの刺身がコリコリといい音を鳴らし、夜風が心地よい。

「俺たちだって会社行きたくないよ〜って日あるじゃんよ。引きこもりたいことあるよな、それでも家庭があるし、稼がなくちゃって思うもの。今は俺がいるからいいよ? でも俺が死んだらどうすんのって思うわけ」。ワイフは「キャンピングカーがまだあるんだったらぜひ息子さんを旅に連れ出してあげてください」と珍しくまともなことを言った。おじさんは上機嫌で、「彼女(ワイフ)のせいで今夜はしゃべり過ぎちゃったよ〜ん。会社では内緒だぞ」と相棒に釘を刺しながら嵐のように帰って行った。

活力をみなぎらせガード下を歩くワイフ

活力をみなぎらせガード下を歩くワイフ
水道橋駅ガード下

意外とリーズナブルなコバコの店が並んでいる水道橋ガード下。

釣り好きが萌える立飲みで父ヒロシとの思い出語り、「魚升」

釣り好きが萌える立飲みで父ヒロシとの思い出語り、「魚升」
魚升

おじさんたちとの邂逅に、さらに活力をみなぎらせガード下を歩くワイフ。水道橋界隈には、意外とリーズナブルなコバコの店が並んでいる。ワイフが言う。「こないだの旅は、案外楽しかったな」。先日、父ヒロシ自らの発案で「ヒロシ退職祝い旅行」を計画、一同で小豆島に行ったのだった。憎まれ口しか叩かない永遠の反抗期である妻は「このクソ忙しい時期に、じじぃ自らから祝賀会を計画するなんて図々しいにもほどがある」とぶつくさ言っていたが、今夜のおじさんの苦悩に父ヒロシを重ねたらしい。 ワイフが「2軒目はここだ」と暖簾をくぐったのはやや新しめの「立ち吞み海鮮 魚升」だった。四国は沖ノ島の漁師から直送された魚介が食べられるらしい。刺身2点盛りとなめろうとその他一品のドリンクセットで980円、単品のつまみは300円台から400円台が主流だ。

奥ではおやじさんが、店内では女の子が一人忙しそうに料理や酒を運んでいる。7割方埋まっているテーブル席に着くと、ワイフは「ビール(380円)。それから日本酒も行くか」と壁の390円(100ml)の地酒メニューを見やると、「浦霞」や「あさ開」、「澤乃井」など名酒が並ぶなか迷わず富山の地酒「銀盤」を指差した。 「『銀盤』は成人式の日、初めて父ヒロシと一緒に飲んだ日本酒なのだ」。ヒロシの出身は富山県だ。そこから関西に進学し就職、三十代で福島に転勤し再び大阪へ、定年後は北陸の会社で嘱託として働き続けたというまさにサラリーマン一色の人生を送ってきた人である。

店内には真鯛や貝割(カイワリ)、浪人鯵(ロウニンアジ)など骨になった魚たちが標本のごとく飾られている。名前が読めない珍しい魚もある。釣り好きには萌える店だ。「子どもの頃、ヒロシに連れられて近所のどぶ池によく釣りに行ったんだ。たいがいボウズか釣れても雑魚ばっかりだったが、ある日わたしの釣り糸にものすごい大物が引っかかったんだ」と言う。

「銀盤」は透き通るような爽快感とのどごしが交互にやって来る一杯で、醤油をたっぷりかけたなめろうをアテに飲むとなかなか好相性だ。 「それで何が釣れたの」「ヒロシと二人掛かりで糸をぐいぐい引っ張ったら、カメがばしゃばしゃ足をもがかせながらえさに食いついてたのだ!」ワイフがカメの物まねか、ものすごい形相で目を剥く。物の怪か! 「カメはヒロシの手によって家に運ばれ、しばらくペットとして飼われることになった。しかしわたしは怯えていた。ちっとも可愛くない上に、カメの口の中にはまだ釣り針が残ったままだったから……!」

ここで艶やかなまっ黄色のだし巻き卵が登場。おお〜と思わずふたりで声を上げる。びっくりするほどこれが旨い。甘さ、塩気、出汁が見事に調和。大根おろしに少しの醤油をたらして食べるともう天国だ。 「そう、カメだって天国に行きたかったはずだ。しかし死ぬこともできず、えさを食べることもできず、針をくわえたまま一生、ヒロシのペットとして晩年を過ごすなんて、カメ仲間に知られたら赤っ恥の生き地獄だ」とワイフは、鼻の穴を膨らませて話しながらも日本酒とだし巻きを交互に口に運ぶ。そこで彼女が父ヒロシに提案したのは、カメに恨まれないように針を抜いてやろうということだった。

しかしヒロシは不器用だった。ある土曜日、彼女がランドセルを背負って家に帰ると、ヒロシがバケツに入れたカメを手にぎょっと彼女を振り返った。「『どないしたん』と彼女が言うと、『うん、カメさんも家に帰りたいって。釣った池に戻しに行こか』。しかし彼女は見逃さなかった。「カメは、口から流血していたのだ!」。どうやらヒロシは“針抜き手術”に失敗。証拠隠滅をはかるがごとく、池に戻そうという腹づもりだった。ヒロシ同様カメの復讐に怯える彼女は異論を唱えることなく、ヒロシとともに池に向かった。 「カメは、振り返りもせずもの凄い勢いで池に潜って行った。それを見てヒロシは言ったよ。『カメさんの声聞こえたか? おおきに、命を助けてくれてってゆうてたな。カメの恩返し、あるかもわからんで」娘が娘なら親父も親父だ。何事も自分に都合の良い解釈だけでこの世を生きている。

ワイフが「ぎんばん、お替わりくださ〜い」とお姉さんに言う。猪口いっぱいに注がれる様子をうっとり見る。「ヒロシが旅先の夕食で、頼みもしないのに乾杯のスピーチを突然始めたのには驚いたな」とワイフが言う。確かに。長年会社人間として働いて来ると、たとえ家族旅行とて宴には演説が欠かせないのだろう。ヒロシのスピーチを再現しよう。

『今日はわしのために、こんな素晴らしい旅行を計画してくれてありがとう。会社に勤めて40年、大阪、福島、福井を縦断し、皆には苦労をかけたかもしれへんけれども、なんとか勤め上げることができました。そして何より、一番言いたいことは、一番偉いのは、(ヒロシここで嗚咽)お母さんです! お母さんには言ったことないけど、ほんまにわしは感謝してんねやあ!(ヒロシここで絶叫)お母さんがおらんとここまで頑張れへんかった。ありがとう』ワイフが思い出して、笑い泣きがまざった声で「ヒロシウケるわ。でも多分、ヒロシの今回の旅のテーマは、オカンにその一言を言うことだったんだ。娘やからわかる」とつぶやいて二杯目の「銀盤」を飲み干した。ワイフの長い反抗期は、とっくに終わっていたんだ。そのきっかけを、きっと探し続けていたのだろう。ボキは胸をなで下ろした。

【エピローグ】 家に帰ると父ヒロシからハガキが届いていた。几帳面な字で旅の思い出が綴られている。最後に僕あての追伸メッセージがあった。『わがまま放題なよしえですが、どうかお酒は控えめにするよう言うたってクダサイ。そして末永くどうかじゃじゃ馬を宜しく』。横で、酔いつぶれて地鳴りのようないびきを奏でているワイフを見、「お父さん、僕は猛獣使いにはなれません……カモ」と心でつぶやいた。

Finish! Nice outing!

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