【はしご酒】鬼軍曹仕込みの妻と私ハズバンドの哀愁ハシゴ酒!「鳥やす」→「天久」篇。

【はしご酒】鬼軍曹仕込みの妻と私ハズバンドの哀愁ハシゴ酒!「鳥やす」→「天久」篇。
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ここは学生の町、高田馬場。JRと東京メトロ東西線が乗り入れる。僕は、大トラワイフと結婚して3年目のハズバンド。好きなお酒は「早摘みレモン」。行きつけのローソンは僕が日参するのを見越し、どんな新商品が台頭しようとも早摘みレモン枠は死守されてマス♡ヤンジャンと少年ジャンプをめくりながら一人で飲むのが幸せな時間。だって人生って苦悩の連続だもの。家庭生活だって波乱含みだのにボキは先日、後輩男子に生まれて初めてマジぎれしてみた→そしたらマジぎれ仕返された、という異常なシーンを体感しました。早摘みレモンさえもほろ苦い、そんな夜はもうワイフのはしご酒に身を委ねるしかないと、コンパで賑わう夜の町へ荒行に出かけるボキです。ダア!

夜からスタート

からスタート

足が速くなれそうな、世にも珍しい串に出会う巻 「鳥やす」

足が速くなれそうな、世にも珍しい串に出会う巻 「鳥やす」
鳥やす

創業昭和42年。僕らが生まれるより少し前の昭和中期に誕生したこの焼鳥専門店は、高田馬場の繁華街「さかえ通り」の一番果てにある。炭火で焼き上げる串は今も昔も一本60円から。この激安酒場はもとはといえば学生御用達の店だったらしい。

しかし近頃はオオバコのチェーン店に押されてか、学生の姿は見当たらない(女子率は数パーセント、中年率めちゃ高い!)。

「一人暮らしの頃はここで栄養バランスを取っていた」というワイフがまず最初に頼んだのは、串ではなくセロリとトマトだ。二人じゃ食べきれないほどのデカ盛りの野菜も名物で、いかに店主が馬場の学生の健康をおもんばかってきたかが想像できる。ワイフが通い出したのは社会人になってからのこと。「社内で浮きまくっていた新人のわたしを、鬼軍曹みたいな先輩が『行くぞ』と連れてきた」らしい。

でも当時は注文の選択権などは新人には一切なく、先輩らが頼むものをひたすら残さず食べるというまさに昭和の体育会系のワールドだったらしい。「お前〜、まさかいっちょまえに焼鳥食べたいわけ〜。まだ早いんじゃないのぉ〜。まずはこれじゃないのぉ」と言って鬼軍曹がワイフのために注文したのは、まさかの蛙(400円)だった。

二十歳そこそこの女子花盛りから、ただの一度もちやほやされることもレディな扱いを受けることのなかったこの人のメモリアルを、夫としては「可愛そう」を通り越し、ちょっと聞きたくない、なるべくなら知らずにいたい。などと思っていたら、「こんがり焼かれた蛙は想像以上にスタイリッシュだった。これってひょっとして特別扱いちゃうのわたし、と思った」。生まれ育った関西にも、思春期の福島にも、道や田んぼにカエルはいたが、食べられるカエル(あるいは料理できる人がいる)に会えるのは東京だけなのだ、感動したぜと真顔で語る。そして蛙の次に、“鬼軍曹”が注文したのは雀だった(今はメニューにない)。その心意気を買われたのか、鶏への進出を許されたのだ。「雀の姿を見るとさすがにちょっぴり胸は痛んだが、それよりどうやって捕らえたのか、その狩人に聞いてみたい。幼少期から幾度となく雀捕獲にチャレンジするも、やつらはすばしこく人間を翻弄する鳥だからな」と熱弁が続いた。……鬼、鬼はYOUやんけ〜!

ワイフは基本的になんでもじぶんにいいように解釈する天才だ。十代で転校を余儀なくされたとき、「毎日靴が隠されてた」のも、「自画像の鼻の穴に画鋲が刺さってた」のも、転校生で人気者だから仕方ないと思っていたと言う。イッツ・クレイジーポジティブシンキング!

して蛙の味はどうだったか? 「シンプルで淡白で足が速くなれそうな味だった」。鬼軍曹が気の毒だ。新人のために企てた、せっかくのスペシャル蛙の洗礼イベントを、ワイフはおそらく、「わーいありがとうございます!」とたちまち美味しく完食したのだ。そうこうするうちに、僕らのテーブルにも蛙が来た……。隣の席では、中年チームが地元大学の応援歌を合唱している。ここへ通って四半世紀超の彼らにとっては、「蛙」は見慣れた光景かもしれないが頼んでいる人はいない。ボキは内心ひるんでいた。ワイフが思い出の味と言って頼んだから食べる、けれどもこれがもし「洗礼」だったら。軍曹の腹の底の思惑を敏感に察知し、僕はどうしただろうか。

蛙が横たわる皿を見て、ちょっと安心した。顔と思われるものはない。まずはそっとお箸でプッシュしてみる。思いがけず弾力があった。そっと一口かじってみた。あ、れ? カエルは予想以上にイケた。白身魚にほのかに野性味を足した面白い味わいだ。悪くない。程よい歯ごたえが確かに「足が速くなれそう」だ。僕は気づいた。きっと鬼軍曹は、ここのカエルを食べたことがなかったのだ。このような面白い味(しかもこの店では高級品)と知っていたらいぢわるでも洗礼でもない。心のこもった歓迎イベントだ。妻が、「ね。ふつうにうまいっしょ」と言って残りを両手で掴んで食べる。骨のわきっちょについたお肉まで綺麗に。ボキは大人の階段を一つ登った気分だった。明日会社に行ったらみんなに自慢しよう。

そして、ここへ来たらもうひとつ。「透明感溢れる煮込みを食べねばならない」と妻。鶏ガラベースで炊き上げた大根、人参、手羽先入りの煮込みは、味噌でも醤油ベースでもない。大変上品な塩味にやわ肌の鶏肉。もうほっぺが落ちそう〜。ホッピーの中をお替わりし、だんだんとボキは夜のエンジンがかかってきた。

「で。その鬼軍曹とはその後どうなったの」と聞くと、「どうもならない。鬼軍曹は鬼のままだから意味がある」と言って妻は煮込みのつゆを飲み干した。「だけど、ちょっと変わったよ」。会社の中で「鬼軍曹と酒のくみかわした勇気あるやつ。そして蛙を食したおもろいやつ」というポジションを妻は見事獲得したのだ。会社人生、キャラ一発。新人諸君、出されたものは何でも食べよ……!

いやっほ〜!「神田川」

いやっほ〜!「神田川」
神田川

「鳥やす」を出ると、ワイフは雨の神田川に向かって駆け出した。そうか、ここはリバーサイドなのだ。東京のど真ん中にありながら波打つ川に興奮する妻。荒くれだつ川に「いやっほー」と呼びかけている。その横顔はもはや殿様ガエル。都会のど真ん中を、非日常に自在に変換させるワイフ。どしゃぶりの中、橋から身を乗り出す殿様ガエルはもはやサイコサスペンスだ。かくして、ひとしきり春の嵐をエンジョイした妻が向かったのは、駅の目の前にあるひなびた雑居ビルだった。

関西串カツの名立飲み。人気はまさかの春巻き〜?「天久」

関西串カツの名立飲み。人気はまさかの春巻き〜?「天久」
天久

「鬼軍曹がここへ連れてきてくれたのは、蛙歓迎会から何年も立ったある夜のことであった」と妻が語る。沖縄料理から手打ちうどん、寿司屋に珍しいミャンマー料理、スナックなどが入っており、どの店も思った以上に賑わっている。しかしビルの奥はいかにも魔窟。建物全体がチェーン店にはない濃縮されたオーラを放っているため、ボキのような人生無難至上主義の人間には敷居が高い。妻が目当ての「天久」はその1階の突き当たりにあった。「串かつ 立ち飲み処」という大きな旗が出ている。

「ここは立ち飲みと言えどヤングマンはいない。応援歌を歌いながら飲むような場所ではない」と僕に言う。かく言う妻も、初めて鬼軍曹に連れられてやって来たときに、そう言い含められたのだそうだ。どれだけ緊張感漂う立ち飲みなのかしらと身構えて入ってみると、細長いカウンターには8人ほどのお客。8割方埋まっている。「らっしゃい」と微笑むのは、ショートヘアをふんわりオールバックにした華奢で品のいい女将。薄化粧だが、その昔はモテたであろう美人さんだ。

これだ、客がおのずから行儀よくなるのは、この女将の放つ空気感だ。そして奥のフライヤーに立つのはこちらもタフさがにじみでた店主だ。生ビール(ドリンクは全て400円)を二つ注文しながら、おや? と思った。よくありがちな、関西風串カツにある「二度づけ禁止」の共有ソースが卓の上にないのだ。その代わりに不思議な調味料のラインナップが。「辛くしたかたったらこのチリソース。こっちが味噌だれ、これがソースでこっちはお醤油。お好みでかけてね」と語る女将のイントネーションはまんま関西だった。

皿に調味料をちょこっとずつ注ぐ。おお、チリソースととんかつソースのブレンドなんかもできるじゃな〜い。僕はかねてからソース缶の中に串を浸ける技について悩みあぐねて来た。ちょっとちょっとつけたいのに、「二度づけ禁止」ルールだと、ドボン!と一気につけなければ串全体に行き渡らないジレンマ。その苦悩から解放されたことも僕の歓喜を盛り上げた。

串カツはすべて120円。キスにうずらに豚に鶏、ししゃもにレンコン……。はじから注文しようとすると女将が言った。「串は人数分ごとの注文になるから、ふたりで仲良う選んでね」。なるほど、一人で来たら各種一本、三人できたら三本ずつがお約束らしい。自動的に、「仲良う」どころかすべての主導権はここでワイフに移行するのが我家のお約束だが。ワイフが一等最初に頼んだのは、お一人様一本限定の「春巻き」だった。「串カツの春巻きなんて、大阪でもお目にかかれない傑作だ」。粉雪のような細かいパン粉の薄ごろも。シャクシャクといい音を響きかせながら口の中でとろけて行く。春巻きってこんなに御馳走だったっけ〜。野菜も肉も何もかも、うちに秘めていたであろうポテンシャルを遺憾なく発揮している……。

料理の世界じゃ素材が八割と言うらしい。だけど仕事ってのは素材以上の力を引っぱり出すことじゃないかしら。うむ、それこそがボキが目指す職人であり仕事人だ。となると……。後輩クンの持ち味を、引きだすのもボキの仕事なのかしら。お替わり自由のキャベツを奥歯で噛み締めながらブルーになった。

この店が出来たのは11年前。「わたしら神戸やから、大阪の串カツのことはよう知らんのよ(笑)。けど、マスターが春巻き揚げたらどないやろ、ってゆうてね。ある日やってみたらこれが美味しかってねえ」。ソウルフードの伝統に捉われないパイオニア精神じゃないか。そうだ、ボキはそんなことを後輩諸君に伝えたいだけなんだ!

常日頃、穏やかな性格から『北の国から』の純君に似てると名高いボキが、あの日後輩クンになぜ怒ったのか、きっかけは覚えていない。ただ覚えているのは、「僕が新人の頃はもっとやってたぜ。誰も知らないことを調べて、誰も出してない企画を出すことに夢中になってたぜ。君は可能性持ってんだから、もっとねばれよ!」そう言ったんだ。てっきり「あざっす。僕もっと頑張ります」という答えが返って来ると思った。が、後輩クンは両の手をひざの上でぎゅうとにぎり、「じぶん、そんなやれてないっすか? まじやれてないっすかー!」と吠えたんだ。あまりにびっくりして、ボキは椅子から落ちそうになった。“俺たちの時代〜”なんてもっともじぶんがダサいと思ってきたお説教。結局ボキはじぶんが言われてきたことを、おうむ返ししただけのような気がし、深く自己嫌悪の海に落ちてった。

「鬼軍曹がわたしをここに連れてきた日、彼は会社を辞めると決めていたんだ。新たな一歩を踏み出す前に、鬼らしくとどめの一撃を、わたしにぶっぱなってくのかと思ったら、出版社に勤めている友達をここへ呼んで言ったのだ。『俺は辞めるけど、こいつを紹介する。結構骨があるんだぜ。そこらの書き手と違うぜ。仕事まわせ。なっ! 仕事こいつにやれよ。なっ! 俺、言ったからな、やれよ絶対』と友達を恫喝してた」。アハハハ。笑った。笑いながら軍曹の心根が沁みた。最後の晩餐に関西串カツ処を選んだのは、もちろんワイフのソウルフードと知ってのことだろう。 「全カツ制覇! 美味しかったです!」と言ってお会計をすると、一人1800円だった。「ふたりで仲良うまた来てね」と言う女将を裏切ってはいけないような気になった。

エピローグ

エピローグ
高田馬場駅

雨はやんでいた。酔っぱらったワイフが神田川沿いを歩きながら持ち前のハスキーボイスで歌う。♩くるしくたって〜かなしくったって〜コートの中ではへ・い・きなの。呪いの歌にしか聞こえないが、彼女の新人時代のテーマソングらしい。サーブ・シーブ・アタック〜! 暗闇の中、へっぴり腰でエアバレーをするワイフが言った。「そういえばユー、こないだ後輩クンにキレたんだってな」。……なんだよ。このタイミングで地獄耳のアピールかよ。「安心しな。(『北の国から』の)純君だって、反抗期は茶髪に染めて電柱をグーで殴ったりしてたぜ。キレるってのはある意味、情熱のサーブだとあたいは思う。キレ返しのレシーブをした後輩クンもまた同類だ。ふたり、ひょっとしていいコンビになるんじゃないの。わたしは鬼軍曹のこと、きらいじゃなかったよ」。勝手なことゆうなよ……! 僕は鬼軍曹になんかなりたくない。でも、ちょっとわかった。『行くぞ』と誘う先輩にも勇気がいる。蛙も絶品串カツもきっとその照れと葛藤を隠すカムフラージュだったんだ。

翌朝、会社で蛙を食べたと自慢すると、後輩クンが思いがけず「ぎょぎょぎょ!」といいリアクションをした。軍曹キャラで「行くぞ」とは言えなかった。そのかわり「レリゴー?」と小さく聞いてみた。ボキはボキ、君は君ののありのままに。

Finish! Nice outing!

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