【はしご酒】三鷹の森DEハズバンドは「不便なLOVE」を考えた。「大島酒場」→「橘」篇。

【はしご酒】三鷹の森DEハズバンドは「不便なLOVE」を考えた。「大島酒場」→「橘」篇。
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ここは武蔵野台地。乙女もキッズもパパも大好き「ジブリ美術館」に、ロマンチックな星空が眺められる国立天文台。そして「人間失格」の太宰治が愛人と入水自殺するまで暮らした町、三鷹である。文学と伝説と緑があふれ、中央本線の中で宇宙にもっとも近い駅。その上、「もしもわたしが江戸の時代に生まれたのなら、鷹狩りの名手になっていたであろう。三鷹の山麓を舞う王者、鷹を一撃する快感……よ!」とワイフが言うように大河ドラマの中にひとり没入することだってできる。三鷹の地名は、徳川の時代に鷹狩りの地だったことに由来する。内弁慶のくせに心はエブリタイム・ハンターでありたいと叫ぶ大トラの妻が、僕を連れ出し今宵ハントにやってきたのは、シブい立ち飲み酒場であった。

夜からスタート

からスタート

キラキラトリオが眩しい老舗立ち飲みへ 「大島酒場」

キラキラトリオが眩しい老舗立ち飲みへ 「大島酒場」
大島酒場

魚料理と日本酒が売りという「大島酒場」は創業55年。すぐそばに、同じ屋号で昭和初期創業酒屋もある(こちらはご親戚の経営)。

あかるい店内に入るなり僕はあまりのクリーン感にまず打たれた。つるつるのカウンターにはボーリングのピンのごとく、美しく調味料が三角形に並べられている。ちり一つない、曇り一つないカウンターの内側に立つのは、これまたピカピカ酒場にふさわしい、キラキラ三代男組だ。2号はSAM(「TRF」)にそっくりな兄貴。3号は爽やかキュートな二十代のヤングマン。世代は違うも三者が放つキラキラ感は、酒場より海が似合いそうだ。

几帳面なチョークの文字で書き込まれた地酒の黒板。料理はポテトサラダ(300円)などの定番以外に、今日の刺身に煮魚、焼き魚が書かれている。

注文が入るとあらかじめ盛られた皿を冷蔵庫から出してくるのは、キラキラ3号。調理担当は2号で、酒の説明やら客との談笑を担当するのが大将だ。魚は調布の市場から仕入れるらしい。

「今は肉より魚のほうが高いのよ」と言う大将に、妻がしまあじの刺身を頼む。ほどよくあぶらがのっていて旨し。「魚は獲れたてのをたださばけばいいわけじゃない。おろし方、寝かせ方によって食感はまったくちがくなるノダ」と魚ツウを気取って言う妻だが、いまだ魚を三枚におろせないぶきっちょ主婦だ。

僕が頼んだのはサーモンの照り焼き。甘辛くかっきりした味付けがいい。ビールがすすむぜとグラスをあけると、妻が無言のプレッシャーを隣からかけていた。「そろそろ日本酒に行くタイミングだろ?」と言いたげに黒板に視線を投げる。

そうか、ここでは2杯目からは皆日本酒に行くらしい。「どんな感じがお好きですか?」と微笑むSAMの歯はとっても白い。今にも♩ボーイミーツガ~ルが流れそう。僕はなるべく優しい軽めのを……と言うつもりが、「男らしい辛口で」とつい口走っていた。少しでもタフなガイと思われたい。こいつは日本酒をわかってるなと認められたい。

一方妻は、「わたしはア、甘くてかるくて爽やかでちょっと果物っぽい感じのが好きです♡」と自分勝手なキーワードを放っている。他人の評価も人への配慮もまったく気にしないその自由さを、僕はたまに呪う。

SAMが僕に出してきた一杯は新潟の純米酒「鶴齢」(かくれい)、妻には山形の特別純米酒「上喜元」だった。いずれも550円。コップに盛り上がるほど注がれた艶やかな酒。ふひぃ~と妻と同時にため息を漏らす。ああこの極楽……。そうしてほろ酔ううちに、てっきり爺ちゃんと息子(SAM)と孫と思っていたキラキラトリオのうち、3号はただのアルバイト君と判明した。

「彼は三鷹阿波踊りのホープなのよ」と大将が誇らしげに言う。「私と顔似てますかな。実はねえ、よそでこしらえた子なのよねえ」と言う大将に、真っ赤になる3号が初々しい。阿波踊りの他にも、「クランプ」とかいうダンスもやっているという3号。ケータイで素早く[クランプ ダンス]と検索すると、上半身裸で踊るストリート風の……ブラザー風の踊りだった。おじさん、ごみんこっちのほうはお手上げだ。

卓上には使い込んだ大きな玉のそろばんが黒光りしていた。注文はすべて大将がえんぴつ書きで書き込みこれで会計する。じつにアナログだ。今時の居酒屋は、ブザーで押せば人が来る、商品名を押せば厨房に注文が入る、割り勘代まではじき出す。そんな人肌を感じないデジタルワールドには存在しない「面倒くささ」が愛おしい……。僕は、昼間の出来事をひとり反芻していた。

取引先のはげ上がった部長は言ったのだ。『君ぃ~。時代は合理的、建設的、利便性よ。かつそれらを皆でシェアすること、つまり共有ね。わかるよね? 皆、一秒も無駄にしたくないわけ。コンパクト、ショートカット、お役立ちが三原則。君若いんだからさ、も少し頭やわらかくなんないわけ?」。ダア~! 低いうめき声を出す僕の横で、妻はのんきにキラキラ3号にむかって「若者よ、阿波踊りを一つ踊ってみてはくれまいか」と熱っぽく所望しているのであった。そう、この店にはアナログ感溢れる人肌しかないのだった。LOVE……!

ボキらは便利さなんか求めて「旅」してんじゃねえ「三鷹 北口の横丁を目指して」

ボキらは便利さなんか求めて「旅」してんじゃねえ「三鷹 北口の横丁を目指して」
三鷹北口店

駅の逆側に気になるニュースポットが出来たらしいと妻が言うので、キラキラトリオの最高立ち飲みをあとにし歩きだした。「横丁」と称するその”新名所”はこぢんまりとした店が並ぶ界隈の中で異様な明るさを放っていた。そこはなんというか絶対に”横丁”ではなかった……。

「お寿司屋に日本酒バルに餃子屋さんにワイン……。色々あることはあるが、と妻が珍しく立ち尽くす。覗き込む我々に気づいた店員は元気良く表に出て来るとマップを指差しながら、「横丁内の店は、基本的にどこの店舗の料理もテイクアウトできて、中央のテーブル席で食べられるんですよ。いろんなお料理が楽しめますよう」さあ!と促す。……

ボキはこれまで流されて生きて来た。長いものにはどんどんまかれて生きて来た。しかし昼間、「今の時代」を語った部長の顔が脳裏によぎった。ボキは、本当は人が決めたレールになんか乗りたくないんだ、便利さも時代の空気も合理性も求めちゃいないんダア~!

謎の演歌少年と出会う奇妙なジンギスカンの夜 「橘」

謎の演歌少年と出会う奇妙なジンギスカンの夜 「橘」

「横丁の魂は作られたフードパークなんかにゃ宿らないんだじょー!」と妻が夜道で叫んだ。まったくだ。僕らは不便さを、人肌を、初めましてのドキドキを求めて町に出る。怒られたり、絡んだり絡まれたりしながら、人生の”穴”を探すためにお出かけするンだ。なんだ? デジタルって。マニュアルって。シェアって。世の中を、簡単にまとめるなよ! と、いつになく先に正気を失ったのはボキのほうであった。

ボキは怒っていた。通り沿いにはぽつぽつと縄のれんの明かりがともる。2軒目に向かうは、ニュースポットでも流行ってる店でも、口コミ評価が高い店でもない。ボキらが「応援したい店」にしようということで、珍しくワイフと団結した。

「ジンギスカン」が売りらしい「橘」とい薄暗い店を覗くと、作務衣姿の貫禄を漂わせたおっちゃんと目が合った。「何かが起こりそうなオーラを感じる」と妻が言う。確かに海のものとも山のものともくくれない空気感。おそるおそる「こんばんわ」と入った。中は予想外に広かった。いや、広いと感じたのは空いていたせいかもしれない。作務衣のおっちゃんは主であった。厨房ではおかみさんが料理をし、唯一埋まったテーブル席では、飲み過ぎたのかうたた寝をしている男3人組。

おっちゃんが「ジンギスカンね」(1人前1200円)と薮から棒に言う。ボキのハートは高ぶっていた。何しろ、つかみどころがない。つかみどころがない=魔性のオーラとも言う。妻が「マグロメンチなんてのもあるぞ」と言うのでビールのアテに頼む。

店の魔性、がじわじわ本領発揮しはじめたのは、作務衣の主が姿を消して「して、このジンギスカンはどう焼くのだ」と、鉄板を前にして妻が言い、例によってボキがうろたえ始めた時であった。「そこにジャーってお肉乗せれないいと思います!」と唐突に言うのは、カウンターに腰掛け遊んでいたぽっちゃり男子だった。主の息子にしては若すぎる。孫にしては老けすぎだ。

奥からおかみさんが、「野菜を先に敷いて、その上にお肉を乗せて、最後にトマトよう~」と言うのを、男子がまんま繰り返す。なんだなんだ、この謎のアットホーム感は。ほどなく野菜はしんなりとし、トマトとからめて食べる生ラムは絶妙に旨かった……。

主が再び姿を現すと、ぽっちゃり男子を指差し、「この子知らない?」と我々に言う。「たまにテレビとかも出てんのよ。演歌歌手なのよ、歌手。知り合いからちょっとあずかってるんだけどサ」と言う。こんなときだけお調子者の妻が、「あら、どこかでお見かけしたと思ったら」などと合わせている。それを聞くや、遊んでいたぽっちゃり男子は「ふだんはちゃんと店の手伝いしてるんですけどね」と言いながら、そそくさと自分の歌らしいCDをかけ始めた。そして口ずさみながら店を歩く。な……なに、君は誰、ここは何? そして「僕、さぶちゃんの後がまを狙ってるんですよね」などとものすごいことを素でのたまっている。若くして老成したキャラのぽっちゃり君は、世にもまれていないイノセンスで客らを蹂躙するのだった。

聞けば、まだ地元関西から上京して1年らしい。アパートからだいぶ離れた三鷹まで通い、店の手伝いをしながら歌手活動をしているのだそうだ。彼は出演予定の番組の宣伝をし、おしみなく生歌を披露した。そろそろ皆がお会計の段になったときである。当店のクライマックスはここであった。『三鷹ァ~三鷹。この電車は中央線快速新宿行き、間もなく発車いたします。車内混み合ってご迷惑をおかけいたしまアす』。おもむろに始まったのは、ぽっちゃり男子の”車内アナウンス”であった。演歌なんかより客らをハッと驚かせたおそろしい”車掌”秘技であった。さすがは歌手、発車メロディの音程まで確実に当ててくる。

なんとなく他の客とジュニア演歌歌手とご一行となって、「おやじさん、御馳走さまー」「では明日~」などと口々に言いながら、駅まで歩いた。途中、三鷹のメロディは「めだかの学校なんですよ」と言うぽっちゃり少年に、ほほお~と皆で言い合い「おやすみなさい」と別れた。 彼とは二度と会わないかもしれない。しかし今日出会った都会の「穴」……。面白かった。 その昔、仕事マニュアルを前に「わたしは予定調和というものがきらいなのだ」泣いたワイフに、自分が似てきた気がして僕は夜道にはたと立ち止まった。ボキは引き返せない穴道をすすんでいるのではないのだろうか。誰かおしえて~!

Finish! Nice outing!

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