【はしご酒】中央線最大歓楽街の横丁さんぽDE妻は「しのぎを削る」を考えた。「やきや」→「神宮の風」→「台北酒場」篇。

【はしご酒】中央線最大歓楽街の横丁さんぽDE妻は「しのぎを削る」を考えた。「やきや」→「神宮の風」→「台北酒場」篇。
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JR中央本線と東西線が乗り入れる中野駅は、中央線の中でもある種「世界レベル」の存在だ。南口の中野サンモールにはフィギュアやアニメ、漫画などのサブカルショップが並ぶ聖なるオタクロードとしても知られ、外国人観光客も多い。駅を中心に東西南北それぞれ違った趣きの散歩道や飲み屋横丁が広がり飽きることがないのも人気の理由だろう。【東京おでかけ】

夜からスタート

からスタート

”兄弟”でもキャラがかぶらないスバラシサ

”兄弟”でもキャラがかぶらないスバラシサ
やきや

その夜、妻が僕を誘ったのは、中野駅前の喧噪から少し離れた路地の小さな赤提灯であった。え、こんなところに店があったの。そんな死角に佇む立ち飲み「やきや」の奥は、満員電車のごとく賑わっていた。

荻窪の「やきや」とは兄弟店だが、荻窪がイカ専門店なのに対し、こちらは串専門と明確にわかれている。どう見たって入る隙間はなさそうだ。がしかし、妻は入り口からじっと中を睨み、己の存在を全身でアピールする。その人間ばなれした異様なオーラに何人かが気づき、やがて店のおばちゃんが、「ほらそこの兄さん詰めて! お姉さんどうぞこちらへ」と笑顔で通してくれるではないか。僕は妻がぐいぐい攻め込む後ろをスンセンスンセン……と謝りながら追う。「ここはどんなに混んでても隙間を作る天才おばちゃんがいるのだ」と妻が言う。

そして、白いひげをのばしたダンディズム溢れるマスターがカウンターの中で、「らっしゃい」と迎える。顔だけ見てたらちょっとしたビストロのシェフ風だ。焼き場では旨そうな串が煙をあげている。

僕は混雑する店に配慮し「串盛り合わせを…」と頼むと、おばちゃんは「うちは盛り合わせはないの。なんでも好きなのを1本から言ってちょうだい」。”ヤマシタさん”と呼ばれるちっこいおばちゃんは、酔っぱらいには厳しいが、お行儀よくさえしていればエンジェルだ(と妻)。串は、塩とタレの他、味噌でもいける。「手羽先2本!」と妻が言う。「驚くぞ。ニワトリ業界では、『手羽先の本領を発揮させてくれるのは、やきやさんだけピ~!』と名高い手羽だ」。さすが百獣と会話できる妻である。

1本百円の手羽先は驚くほど大きく、「オーマイ、ジュースぃ~」と叫ぶ妻の横で、骨と骨の隙間のお肉まで残さず食べる僕。軟骨とつくね(100円)は、店特製の味噌味で登場、甘辛く酒のアテには持って来いだ。

ビール1本を開け、ホッピー(320円)を注文する。透き通るでっかいロックアイスを見て驚いた。「これは氷屋さんで作られた旨い氷なのだ」と言う。溶けても酒の味を落とさない氷も、マスターのこだわりの一つらしい。

仕上げに、煮込みを頼むとヤマシタのおばちゃんが「卵は入れる?」と微笑みかける。優等生でありたい僕は、元気良く「お願いします!」。半熟の玉子入りだと320円。半透明のつゆには肉の出汁がしみている。旨すぎる……。一般的な味噌ベースではなく、荻窪「やきや」のともまったく違う味わいだ。

「煮込みはあっち(荻窪)とはまた全然違うのよ……。ナイショだけどね……」とヤマシタのおばちゃんが意味深に僕につぶやく。「煮込みを頼むと必ず出てくるヤマシタさんのナイショ話」と妻がご機嫌で言う。兄弟店とてメニューを変えレシピを変え、しのぎを削ってんだなあと僕が言うと、妻がホッピーのマドラーを持つ手をはたと止めた。カラーンと不吉な音を立てて氷が溶ける。宙を睨む妻。え、何、どした!? 僕なんか言った!?

小さな迷路のような狸小路でこころも迷子?

小さな迷路のような狸小路でこころも迷子?
中野散策中〜

しのぎを削る。しのぎとは刀の刃が一番盛り上がっているところ。そこが削れるほど激しくぶつかり合う熱戦。というのは国語の授業で習った。「私にはしのぎを削る相手がいない。仲間がいないぼっちだ……」と妻が言う。妻は長年勤めた会社を辞めてフリーランスになって3年目だ。あれだ、3年目の憂鬱というやつだ。

2軒目はサンモール側を目指した。「狸小路」という怪しげな形の三角歓楽街があった。鰻屋にスナック、音楽バーなどがひしめく小さな異境をさまよいながら、「今のあたしゃ狸小路ならぬ袋小路だ…」と道ばたの石ころを蹴飛ばす妻。

やばい、今夜は完全に悪酔いナイトだ……。僕は商店街の先でひときわ賑わっている「立ち飲みパニパニ」の外席をダッシュでキープ!

洋風スタンディングバルで「神宮の風」を感じる

洋風スタンディングバルで「神宮の風」を感じる
立ち呑み パニパニ

「神宮はいりま~す♡」とカワいいお姉ちゃんが、僕のサワーにヤクルトをこぽこぽと注入する。パニパニ名物「神宮サワー」だ。甘くミルキーな酒。これなら酒が弱い僕でもイケる。「神宮=ヤクルトなんて、シャレがきいてるね!」と僕。

妻は無言で酎ハイを飲み続ける。料理はラビオリやおかかチーズ、おつまみカレーなど300円前後でバリエーション豊富。片っ端から食べてみたいが、妻は「寒い。春だのに私の心はアラスカのように寒い」。外席に春の冷たい風がブンブンと吹き荒れた。3年前の3月。日本中が忘れられない出来事が起こった。あれから、平静を取り戻したようでも色んなことが変わってった。妻の同業仲間の何人かは職業を変えた。

お客さんもう五人死んじゃった。でも負けないヨ「台北酒場」

お客さんもう五人死んじゃった。でも負けないヨ「台北酒場」
台北酒場

「ぬくいところでぬくい酒を飲むのだ」と主張する妻が3軒目に選んだのは、「台北酒場」というひなびた一軒だった。夜遅めにオープンし朝までやっているという究極の宵っ張り店。

カウンターには、酒のグラスを握ったまま突っ伏して寝ているおじさんに常連らしいカップル。カウンターに立つのは、お肌つやつやの美人女将だった。どうやら妻もここは初訪問らしい。女将に紹興酒を頼む。

お通しに、女将が「これ食べてみて」と出してきたのは韓国の友人からもらったという、ジャコと唐辛子をあえた一皿だった。ピョオーーーーーーー!!!! 妻と僕は同時に吠えた。脳天を突き抜く辛さに、ヒーハー言いながら紹興酒を飲む。女将がおかしそうにけらけら笑う。「あそこで寝ちゃってるお客さんにも食べさせたほうがいいぞ」と妻が言う。「今日は12時間飲んで来たんダッテ。寝かせてあげヨ」と女将がクスクス言う。

「もう28年やってるヨ」という女将は台北生まれ。「台湾は何食べても美味しいし、夜店も楽しいヨ」と言う。故郷が恋しくはならないのかしら。台北から取り寄せたというおすすめの腸詰めは、八角がきいた深い味わいで予想外に甘口だった。「28年もこの中野の激戦区で店を続けるってすごいな」と妻が言う。心なしか元気を取り戻したらしい。

「常連さんと仲良しデネ、旅行も沢山行ったヨ」と女将が壁を見る。女将を囲んだ大勢のお客らとの観光写真が引き伸されて飾られている。

「でもネ、もう5人死んじゃった」。ご、5人! また僕らは同時に声を上げた。長いこと贔屓にしてくれてた人がこの世を去ってく寂しさは、四半世紀以上も店をやっていたからこそ味わうことなのだろう。「ダカラ今はタイヘン。新しいお客さんうれしヨ~」と女将が言う。「私たち、通いますうぅうう!」妻が野太い声で宣誓する。紹興酒が空いた。

チンタオビールを喉をならして飲む妻が言う。「私、忘れてた。やめてく仲間に誓ったんだった。オモシロ街道はまかせとけ。私はずっとオモシロ街道を歩ってくって」。故郷を離れ異国の荒波にもまれ、しゅくしゅくと暖簾を出し続ける「台北酒場」の女将。やめない、という生き様だ。

『世界が終わっても気にすんな。俺の店はあいている』と言った詩人三代目魚武濱田成夫。彼をリスペクトし物書きを志した妻が、ようやく自分を取り戻した。「女将さん、わかったよ。しのぎを削る相手は自分自身だった。だから……ミミガーとチンタオビールもう1本おくれ」って、まだいくんですね……。

Finish! Nice outing!

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