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勝ちどきと月島がニッポンの外国人に愛されるわけ。「越後屋枝村商店」→「魚仁」篇

今夜、私ハズバンドがお送りする妻とボキのはしご酒コースは、勝どき駅→角打ち「越後屋枝村商店」→魚を愛してやまない魚屋さん「魚仁」→月島駅という東京下町はしご酒コースです。

夜からスタート!

  1. 今夜の私ハズバンドがお送りする妻とボキのはしご酒の舞台は「勝どき駅」からスタート

    勝どき駅

    奥様の素顔は大トラでした。結婚3年目の、私ハズバンドがお送りする妻とボキのはしご酒の時間です。夜ごと飢えた野生のトラのごとく、酒場をもとめ徘徊するワイフですが、近頃の悩みは「で、何してる人?」と聞かれることだそうです。「トラは職業にならない」と、ようやく悟ったようで、「将来、何屋さんになるべきか」とひとり悶々としている様子。そんなワイフが今夜待ち合わせ場所に指定したのは月島。月島と言えばもんじゃの町。「わーいわーい、もんじゃ久しぶり〜」と浮かれる観光気分のボキの予想とは、例によってぜんぜん違うアプローチを仕掛けて来るワイフです。さて、今夜はどんなトラ街道に導かれるのでしょう。

  2. 昭和元年創業の老舗角打ちはワールドワイドだった。「越後屋枝村商店」

    越後屋 枝村酒店

    夜7時の勝どき駅。地上に上がるといきなり車がぶんぶん走る大通りの交叉点に出たので驚いた。頭に思い描く下町景ではなく、大都会の夜の景色だ。再開発された駅周辺で、思わず方向感覚を失い、自転車に乗った人にスマフォの地図を見せながら、「ここの酒屋さんに行きたいんですけど」と言うと、「真っすぐ行くと橋と小学校があります。すぐ近く」とにっこり。道に迷ったらナビより地元の人に聞くスタイルは、ワイフに教えこまれたものだ。「地元民はアウェイの人に道を教えたがるもの」らしい。確かに道を聞くというセッションから町との出会いが始まると思う。自転車の兄さんの言う通りしばし暗闇の大通りを進むと、小さな橋があった。

    • 川面には舟が浮かんでいる。おお、これが月島の運河か。江戸時代から、埋め立てられたこの界隈は路地と水の景色が特徴なのだ。その昔は、文字通り埋め立て地だったから「築島」と言ったそうだが、今ではウォーターフロントの町として、高層マンションが人気というのを区のホームページできっちり調べてきたボキである。

    • 通りをすすむと、小さな間口から笑い声が響く一軒があった。赤提灯には「酒」とある。ボキが覗くとすでに出来上がったおっちゃんたちが3名ほどいた。

    • 赤い顔で氷結を飲みながら立ち飲んでいる。およよ、新人さんかな? という目線。ワ、ワイフはまだか? 正直、ボキひとりで立ち回るには、じつに逃げ場のない小さな角打ちだった。もじもじしていると、お客の一人が「兄ちゃん、どうぞ」と陽気に声をかけてくる。L字カウンターに「おじゃまします……」と踏み込むのは、バンジージャンプ級の勇気がいった。奥の椅子に、可愛いかあさんがいた。

    • 「何飲みます?」と聞く。ビールと言うと、奥の冷蔵庫から出してくる。キャッシュオンだ。おやつも色々あるよ、と先客の色黒のおっちゃんが指差す。ベビーチーズにチーカマ、柿の種などがボトルの中に無造作に入っていて、「僕長年通ってるんだけど、どれがいくらだかよくわかんないの」と笑っている。「このかあさん、お会計はちゃあんとしてるんだよ。足掛け7年、愛人になってって口説いてるんだけど、ちいとも相手にしてくんない」と笑うおじさんをよそに、かあさんは、涼しげな顔でちんまりと座っている。

    • スーパードライの350ml缶を半分飲み終わる頃、ワイフが「こんばんは〜」と現れた。「お、キミの愛人かね」と色黒のおじさんが言う。トラを愛人に囲うほどボキは向こう見ずな男ではない。「ですです、愛人です」とさっそく機嫌よく馴染み始めたワイフが、「皆さんは地元で?」「そう。コースは決まってるの。この通りの先に、『魚仁』って魚がべっくら美味しい酒場があるんだけど、そこで一杯ひっかけてからここで仕上げ」。

    • 本日、ワイフが計画を立てたはしご酒と逆の流れだ。それにしても、渋い空間だ。ボトルキープの焼酎の横には招き猫。棚には犬のぬいぐるみと謎のヘルメット。壁には、お客さんが貼っていたというスナップ写真がいっぱい。どんな縁か中曽根元総理と鶴瓶が一献交わしているものもある(ここへ来たわけではない)。じつに混沌としたディスプレイが歴史を物語る。かあさんによると、こちらは昭和元年創業。建物もその当時のままだというから大変な貴重な物件だ。 「代々酒屋さんかあ。いいなあ」とワイフ。「聖路加病院があるでしょう。だから第二次世界大戦の時も爆弾を落とされなかったのよ」という。なるほど、キリストにはからずも守られた土地でもあったのか。そんな歴史を知ってか知らずか、色黒おじさん曰く、「ここは外国人客が結構来てたのよ」と言う。

    • 「問題児のポールってオーストラリア人がいてねえ。日曜日は朝から10時間ずうっとうちで飲んでるの。奥さんがいつだったかスーパーで待ち合わせしてるのに全然来ないって怒ってうちに迎えに来てさ、刺身でビンタしてた」とかあさん。刺身でビンタ。さすが築地が近い町の夫婦喧嘩は香ばしい。 「最初はポールもジェントルマンだったのよ。だけど、そのうち酒癖が悪くなってね、仲間の外国人呼んで騒ぐし注意すると中指なんか立てるもんだから、出禁にしたの」。この華奢な体で、果敢にも欧米男子に対峙する様を想像し、わくわくした。「ポールは何しに日本に来てたの」とワイフが聞く。「アクセサリーデザイナーよ」とかあさん。問題児でもちゃんと人に語れる職業があるんだあーとワイフが言う。「ポールの友達にボブサップそっくりのドイツ人の“ビッグジョナ”ってのもいたな」と色黒おじさん。「同じ名前だけど体が小さい“スモールジョナ”もいたわねえ」

    • 「その外国の皆さんは、今どうしてるの」と尋ねると、「全員、まとめて出禁」とかあさん。「それでもポールはしつこく来るもんで、どっかよそで飲みなさいよって言ったら、土手で飲むようになったよ」。ど、土手え……!? 思わずワイフと同時に声を上げて笑った。 間もなく、色黒おじさんが「かあさんトイレ。鍵ちょうだい」と言う。「はいよ」と手渡すのは配送用自転車の鍵だ。「角を曲がったところに公衆トイレがあるから」。(注:飲酒運転は禁止です!)よちよち自転車をこいぐおじさん。様々なカルチャーショックに胸を高鳴らせるボキであった。

  3. 魚を愛してやまない魚屋さんが営む素晴らしき世界 「魚仁」

    魚仁

    「老舗は老舗でも、かあさんの懐はワールドワイド。築80年の古民家で味わう缶ビールは格別だったな」と言う。こちらは月島の関所を乗り越えた達成感でいっぱい。さあ、次なる名所はこちらとワイフが誘うのは、軒先にまでテーブルがはみ出ている魚屋さん風の店であった。もともと商店街で魚屋を営んでいたそうだが、スーパーマーケットの台頭によって、魚を安く食べさせる場所を作ろうと初代が立ち上げた一軒。

    • ボキは目の前に広がる景色に衝撃を受けた。倉庫っぽい天井の高い店の中は満員で、どの机にも大盛りの料理の皿が置かれている。カウンターには、蛤や海老など採れたての魚介の箱がずっしり並び、調理場からはチャーシューや煮込みの大鍋が湯気を上げている。

    • 「生ビール(400円)と、親父のおまかせ盛り〜!」とワイフが言う。「ハイヨー」と叫ぶ姉さんたちは、海の向こうのアジアからやってきた風だが、猛烈に働く。ぐんぐん客席をつめ、空いたグラスを見ると「お飲物、次は」と催促する。隙あらば、魚介が入った皿を手に客席を回遊し、「今日はいい海老入ってマス」と売り込みにも余念がない。バーもいい。カフェもいい。しっぽり静かな縄のれんもいい。けど「酒場エナジーを超越した何かをここへ来ると感じるんだ」とワイフが言うように、そこに身を置くだけで元気がうっかり伝染し合ってしまう、そんな空間。

    • 「おまかせ盛り」の大皿がやってきた。さらにボキは打たれた。二千円にしてこの盛りはなんだろう。マグロに甘エビに白身にホッキ貝……。マグロは赤身と中トロがいい具合にまじっている。うお〜とあちこちで声があがっている。皆、刺し盛りにやられているのだ。噛み締めるほど旨い貝汁が溢れるホッキ貝が特に絶品。これは、サプライズでもなんでもない。この店にとっては、毎日やり続ける当たり前のことなのだ。

    • ワイフとともにグラスを空け、ぐんぐん詰め寄る姉さんにお替わりを頼む。お隣さんの皿に目がいく。「これは煮こごり。結構イケますよ。お裾分け」。ややややと遠慮する間もなく、きれいにカットされた四角いぷるぷるがやって来た。ふぐの煮こごりだ。体の中にとろけてしみ込むような優しい味わい。こんな繊細な料理まで作るんだ……。ボキは、先般の角打ちはじめ、月島という町にもう、ちょっと涙ぐみそうな気持ち。「あとおすすめは牛すじ煮込みです。僕らは二杯目よ〜」。

    • 刺身は鮮度と仕込みが命だし、煮込みは材料と煮込み時間がかなめだし、煮こごりはデリケートな料理の腕を必要とされる一品だ。真剣な顔つきで鍋を煮込む初代と、料理と接客を交互にこなす二代目。一見、二人ともいかつい職人顔だが、笑った顔が人懐っこい。焼酎がたっぷり入っためちゃめちゃ濃いい(こんなところもサービス精神)、チューハイを飲む。“セールスレディ”が来た。「今日はクジラ刺しもアリマスヨ」。じゃあそれを、とつい同時に声をあげるボキとワイフ。本当はお腹はもうぱんぱんだが、この店の底なしの愛に、こたえないとバチが当たる気がする。

    • 海の向こうからやってきた姉さんたちは、平均2〜3年日本にいるらしい。日本語は皆堪能だ。どんな勉強をしたのか、自然と身に付くものなのかはわからない。母国に帰って、何かの役に立つのかどうかも僕らにはもはやわからない。けれども、この大将以下、全員が一同団結!全球入魂!な職場はどこか羨ましくもあった。そんな魚屋チームを眩しく眺めながらワイフが言う。「子どもの頃、ユーは何になりたかった?」「ボキ? ボキは……」。ボキは、サラリーマンになりたかった。サラリーマンという漠然とした職業に憧れたのは、実家がお茶農家だったからだ。第一次産業というものに、幼いながら引け目を感じてたんだ。「ふうん、わたしと逆だ」とワイフ。「わたしは、ナントカ屋さんになりたかった」

    • ワイフが言う「ナントカ屋」、というのは、花屋でも魚屋でも酒屋でもいい、農家なんかも含まれているようだ。つまり家業。彼女の団塊世代の父親は、朝6時に会社に出勤し、深夜タクシーで帰ってくるという過酷な会社員生活だったから、ナントカ屋さんなら会社に行かなくてもいいのにと思っていたらしい。「それに何屋さんをやってます、ってほうが人生面舵握ってる感じでかっちょいいよな!」。

    • 「魚仁」の初代は、田舎から上京して丁稚奉公で魚屋に入って以来、魚一筋に生きる男だそうだ。ワイフ言う。「ここの親父さんが言うんだ。『俺もセガレも勉強なんかわかんねえよ。あたまわりいよ。でも魚のことだけはわかるんだ。(親子揃って)好きだもん』って」。毎朝、築地に仕入れに行くのは“親父”の仕事。荷台をつけたカブでかちどき橋を突っ走る姿は、町の名物になっている。 「毎度〜!」と威勢のいい声を張る親父と二代目。店の奥、お札が沢山はさまった熊手の横に飾ってあるのは、亡き初代の奥さんの写真だろうか。ボキが家業も会社も同じチームプレイと思えるようになったのは最近のことだ。

  4. エピローグ

    月島駅

    「何でもやりたい、何でもできると思ってきたけれど、結局、ナントカ屋さんになれないままだ」とワイフが言う。人生はないものねだりだ。ボキにもワイフにも準備されたハコはどこにもない。ボキだって夢のサラリーマンになってはみたものの、企業のロゴを考えたり、でも最終プレゼンで落っこちたり、ゲームを研究してみたり、と思ったら部署替えになったり……なんて毎日だ。でも、ワイフよ。この先、自分だけのナントカ屋さん、を見つけて作るんだろ。 ボキが一番すてきだと思うのは、角打ちのかあさん然り、誰かのため、なんてカッコいい理由づけをするんじゃなく、「ただ自分が好きだから」やってると言える世界があることだ。

    • 魚が好き、文具が好き、酒場が好き、本が好き。好きには理由がない。あるいは無限大にある。だから景気も周囲の雑音にも影響されない。ここの“親父”のスキスキめがねにかなった市場の魚は幸せだ。それを食べられるのもたいへんな幸福だ。 「だな、ユーのゆうとおりかもしれないな。わしもがむばる……。いいライバルもできそうだし」。帰り道、土手でひとり飲む外国人男(ポール)の姿を探すワイフ。ポールは今、”刺身でビンタ妻”に去られて、ぼっちでがんばるアクセサリー屋さんだそうだ。

今回のコースマップ

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