【はしご酒】恩を仇で返すワイフと私ハズバンドの哀愁はしご酒。「大提灯」→「大つか」篇。

【はしご酒】恩を仇で返すワイフと私ハズバンドの哀愁はしご酒。「大提灯」→「大つか」篇。
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お酒をこよなく愛する猛獣女子と結婚して3年目の私ハズバンドです。ボキ自身はお酒がそんなに強くないのです。ゆっくりと料理を味わいながら、あるいは大好きなサッカーを観ながら飲むのが好きです。しかし、今朝もワイフは、「そろそろ大好きタウン、大塚がわしを呼んでいる……」とひとりごち、「ハズバンドよ、愛妻との今夜のデイトは大塚だわよ♡」と出勤前のボキに不吉な笑みを浮かべたのでありました。ダア……。

夜からスタート

からスタート

JR山手線と都電が走る町、大塚

JR山手線と都電が走る町、大塚
大塚駅

近年の再開発で駅ビルになってしまったけれど、その周辺には有名なおにぎり屋さん「ぼんご」や老舗の縄のれん、角海老のボクシングジム、それにこぢんまりとした商店街やバッティングセンターがある風景は変わらない。相変わらずそこで暮らす人々の息づかいが感じられるのどかな駅だ。

建物を継ぎ足し継ぎ足ししてるうちに。。。面白酒場「大提灯」

建物を継ぎ足し継ぎ足ししてるうちに。。。面白酒場「大提灯」
大提灯

ワイフが目指したのは、文字通り巨大な提灯を掲げた「大提灯」という酒場であった。出入り口はなぜか二つある。片方の入り口から入ると、座敷の個室の脇にすぐに階段があり、降りると炉端風の席にカウンター、テーブル席がL字型の間取りに配置されている。ああ、この店は地下なのだと思うが、もう一方の出口を見ると、ふつうに道路に面している。地形のせいなのだろう。なんだか、だまし絵みたいで愉快だ。

「建物を継ぎ足し継ぎ足ししてるうちに、おかしなカタチになっちゃってねえ」とお店の姉さんが言う。継ぎ足し続けるのは、何も焼鳥のタレだけではないのだな。「間取りがへんてこな店は、机や家具の配置が一筋縄ではいかない。そのちぐはぐさが不思議と心地よい空間を醸すのだ」とワイフが言う。なるほど、きれいに均一化されたオオバコの店には死角がないが、ここはいろんなところにお宝が眠っていそうな穴蔵感がある。名物の煮込み(350円)ともつ焼き(120円)、それにホッピーセット(450円)を注文する。

「煮込みと言えばみんな一緒と思うかもしれないが、店によってまったく違うんだ」とワイフが言う。何時間も煮込み続け、コーヒー色に染まったもつがウリの店もあるが、こちらはどちらかというとぷりっとした色白のもつ。味噌ベースの味付けはしっかり、キレはよくさらさらと食べられてしまう。

辛みそで食べる焼きとんのナンコツがまたいい。柔らかさの奥には予想外のかみごたえが待ち構えていて、じぶんは今、もつと対峙しているぞという充実感をもたらす。ひじきとレンコンの上品なお通しも旨くてボキはゆったりとした気持ちになった。

黒ホッピーを飲みながらワイフが、「この店に、なぜだか旅情を感じないか」と言う。うむ。ボキも先ほどからそんな気がしていた。しばし沈黙したあと、あ……あれか! とワイフが柱を指差した。そこには、『おおつか』という看板があった。「おお、あれはひょっとして駅のホームで使われていたものでははいか」。本物か? いやレプリカだろう、と言い合っていると、焼き場の兄貴が、「本物ですよ〜。うちの弟が鉄道好きなもので」と言う。「え、鉄ちゃんなんですか」とワイフが食いつくと、「僕じゃなくて弟です、弟」と兄貴。「他にもあるよ」。よーく見ると店の片隅には、遥か遠く島根県の、『津和野』駅のもあった。こちらの店は創業60年超。仲良しの兄弟に守られて、さぞかし初代も安心だろうと思う。

ボキの実家は静岡で代々お茶農家をやっている。長男の兄貴を中心に、新茶の季節の5月になると、一家総出で茶摘みをするのだ。でも最近では後継者がいない農家も多くて、守る人がいない荒れた茶畑を見るとボキは兄貴に感謝しつつ、胸がちょっと痛くなる。

ピンクのネオンに導かれて・・・「立ち飲みコーナー・大つか」

ピンクのネオンに導かれて・・・「立ち飲みコーナー・大つか」
立ち飲みコーナー・大つか

「旅情酒場でのウォーミングアップは完了。次は本丸だ」とワイフが向かったのは、北口の繁華街から逸れた細い路地だった。ボキは静かにうろたえた。その路地は、なんというか、黒チョッキに蝶ネクタイ姿の兄さんが客引きするような、ピンクのネオンが点々と並んでいる。な、なに? 「花びら回転」って何!? そんなボキの動揺をよそに、慣れた足取りでずんずん進むワイフ。

ボキはウブだった。34歳、サラリーマン生活足掛け11年。告白しますと、フーゾク的なものには一度も行ったことがありません。女性がいるところといえば、10年前に1度、キャバクラに行ったことがあるだけです。そこでも、見ず知らずの女性とトークするというアーバンボーイ的軽やかさが己に一切ないことを悟り、緊張の脂汗をにじませながら虎の子の万札を払うときには、この世の不条理を噛み締めた……。そのくらいおぼこな男子なのです! さて、妻曰く本丸の「立飲みコーナー大つか」前には、薄暗い軒先のテーブルを囲んでいる常連らしき人々で賑わっていた。イチゲンの一人客は、もうそれだけでひるんでしまう。暗がりできょどきょどとしていると、「何もたもたしてんだ」とワイフが言う。び、びびってるなんて思うなよ、「大塚にもこんな素敵な路地と、立飲み屋があるんだね…」と笑顔を作った。

ワイフの姿を見ると、テーブル席のおじさんたちが「いらっしゃい」と言う。ワイフはにこやかに「こんばんわー」と挨拶をし、中に入った。「お知り合いなの」と聞くと、「いんや」と首を降る。ワイフ曰く、じぶんは「営業マンだ」とセルフマインドコントロールすれば、全人類は「お客様」であり、そう思えば老若男女、国境さえも超えて社交できると悟ったのだそうだ。それもこれも、すべては愛する酒場で心地よく過ごすために編み出した大トラ哲学。その情熱を何か地球のために役立てて欲しい。

店内は予想外に明るかった。レトロではあるが、キレイに磨かれた白いカウンターには、ナスや枝豆、煮物などの大皿が並んでいる。

「あららら、久しぶりだねー」と女将さんが言う。ワイフと姉妹かと思うほどそっくりなハスキーボイスだ。短冊には、湯やっこに焼魚、さつま揚など酒のアテになりそうなつまみが並び、驚くべきことに、200円均一だ。「日替わりはボードだ。それも全部200円」とワイフ。マグロ刺しにいわし塩焼も200円ってまじかあああ!

ワイフは生ビール(400円)と、「オクラ、みょうが、しらす合え」を頼む。「あとそれからヒロさんの目玉焼きもお願いしまーす」。ヒロさんとは女将さんの相棒のおっちゃんだ(でも「夫ではないし、元カレでもない。が、この店が始まった30年前から二人で店を切り盛りする究極のマブダチ姉弟のようなものと思われる」妻談)。ヒロさんは、なぜかにやにやしながら冷蔵庫から卵を取り出した。「間もなく、いい音がするから耳をすませておけ」とワイフが言う。

冷たいビールとしらす合えが納涼の味わいだ。いわしを焼きながら、女将さんが、「うちね、営業時間変わったのよ〜。今月から3時からになっちゃった。早い時間やってくれた女の子がオメデタでね」と言う。なんと以前は14時、もっと昔は12時に開店し、夜勤明けのタクシードライバーのオアシスだったんだそうだ。 「今日はちょっと嬉しいことあったよ〜」と女将さん。「インターネットっつうの、あれかなんかで、大塚の飲み屋でうちを知らないとモグリだって書いてあるんだって、カップルで来てくれたのよ。こんなボロ屋にねえ」と言いながらニカニカ笑う。昔は相当な美人であったであろう女将の笑顔は太陽の塔のようにダイナミックだ。「毎日市場に行ってさ、季節のものを安く美味しく作るっていう昔っから家庭料理だけがウリの店だからさあ」と言いながら、ジャ〜!っと旨そうなナス炒めを作っている。

家庭料理って、やっぱりいいよなあと一人頷いていたら、チーンという思いがけない音が響いた。ハッと音のほうを見ると、ヒロさんが電子レンジを開け、「はい、目玉焼き」とワイフに差し出す。皿をあちあち言いながらワイフが受け取る。「名物ヒロさんのレンジでチン目玉だ」。な、なんという斬新なクッキング……。灼熱の皿の上にのった目玉は、白身も黄身も硬めでうちのとそっくりだった。「レンジで作っても目玉が破裂しない方法をご伝授頂いたのだ」とワイフ。うちの家庭料理はまさかの立飲み仕込みだ。ちなみに破裂しない技は、途中で黄身に楊枝で穴を開けることだそうだ。

「もうお金もらったよねー」と女将さんが言う。ここは、各自うつわの上にお金を置いておき、料理と交換するキャッシュオンシステムなのだ。「まだですよ!」と慌てて言う。「あらほんと。最近まだらボケじゃなくて“よくボケ”でさ、何回もお金もらっちゃうからあたし、やあねえ〜」「“よくボケ”いいね! なんでもよくボケですって言えば許されちゃうかも」とワイフと笑い合っている。

ビールのあとは何を飲もうかと思っていたところ、ワイフが長年この店に通っているが、じつはまだナゾがあると言う。卓上には、黄色い液体が入った瓶が何本も置かれている。 「これはねレモン水。業務用のやつを詰め替えてんの。何に入れても美味しいよ〜」と女将さんが言う。料理にかけてもいいし、チューハイやハイボールに入れても旨いんだそうだ。知らなかったぜ!とワイフが瓶の蓋を開けようとすると、「おっとっと、蓋に穴が開いてるからそのまま振りかけて」とヒロさん。目玉でも蓋でも何でも穴を開けるおっちゃんだ。「それね、発明したのは僕よ」とヒロさんが小声で得意げに言うと、「そうだっけえ。あたしじゃなかったっけ〜? ハイボールに入れても旨いってのはこっちが先に気づいたんだよう」と仲良くこづきあっている。

爽やかな酸味のチューハイもいいが、ワイフはハイボールが高級感を増すと言い、遠慮なくちゃぷちゃぷとレモン水を投入するのだった。

「誰か新しいパートさんは入れないの」とワイフが女将さんに聞くと、「今、考えちゃってねー。ハローワークに出すと、うちいーっぱい応募が来んのよ。なんでだろうって思って聞いたら、週休2日で残業もないし、一人で店番することも多いから人間関係もわずらわしくないでしょう。それにちっちゃい店だから、もし急に子どもが風邪引いたとかってなっても融通がきくからねえ。本当は事務職で探してたけど、うちがいいって来るコもいるんだよ」 今や働き手が不足し、店舗を縮小するチェーン店が多いなか珍しい話だ。ピンクな路地でも中身は真心溢れるクリーン企業、ってのは募集要項だけで伝わるものなのかもしれない。

でも、じゃあなんで募集しないのだろう。「あたし、いつまでここでやってけるかなあって、近頃思ってねえ……」と女将さん。「せっかく新しいコが来てくれたのに、慣れた頃にお店閉めますってんじゃあ、可愛そうじゃない」。 ワイフが隣で、小さく衝撃を受けているのがわかった。女将さんは大変若く見えるが、じつはもう30年もこの店をやっているのだ。「大提灯」の半分としても、一代でやり続ける苦労はいかほどか。「うちみたいに後継者がいない店は、いつどうなるかわかんないからさ」あくまで明るくしゃべるから余計、本心と伝わって来る。

ワイフが「そんなさみしいこといわんでください」と言いながら、ハイボールのコップに視線を落とす。彼女がこの店に初めて来たのは10年前だそうだ。ここへ来て、この女将さんに会って、「混雑したら斜め立ち」「もっと混んだら二重立ち」「ここへ来たらば世界人類皆兄弟」等々を学び、立飲み巡りのおもしろさに開眼したのだそうだ。いわば、彼女の後の人生を左右した場所でもあるのだ。 女将さんが、沈み行くワイフの顔を見て、再び太陽の塔の顔に戻った。「そんなすぐじゃないよう。だってあたし、店好きだもの。ここに来なくちゃ毎日面白くもなんともないもんね。お客さんとボーリング大会したり、旅行したり大好きだもの」と、ワイフを励ますように言う。「ねえ見て、うちの窓も換気扇もすうごくきれいでしょう。年末になると、みんな(常連客)雑巾持って来てくれるんだ」

「おかあさん、チューハイお替わり。あと煮物も〜」「ママ、外に中生3つねー」と声が飛び交う。ここじゃ20代の若者もよろよろの老人も皆、女将さんのことを「母さん」と呼ぶ。ワイフは、店屋の主人を父さんとか、女将のことを母さんとか呼ぶのは、いかにも媚びてる風で気持ち悪いと言う。「けどここでだけは、自然とそういうスイッチになるのがわかる」らしい。 「うちのオカンがこないだ言ったんだ。『恩は遠くから返せってゆうけど、あれはちゃうで。恩は近場から返す、やで』って」。どういうことだ。「人からもらった恩は誰に返してもええ。ってこと」。夜勤明けの人や家庭の味に飢えてる青年、お小遣いが潤沢でなくても駆け込めるこの店に、どれだけの人が救われて来ただろう。そして、皆、女将に里の母を勝手に重ね、親孝行するがごとく、大掃除に繰り出すんだ……。お会計はふたりで約2000円。「気をつけて帰るんだよ」「うん、またね」「またね」と手を振った。

エピローグ

エピローグ
大塚駅 北口

里の家族に、ハワイ旅行をプレゼントするとか、家を建てるとか、そんなすごいことはボキにはまだ当分出来そうにない。「恩は近場で返せ」か……。家族と連絡を取り合うの合うのは茶摘みと冠婚葬祭のときだけだ。幼い頃から、次男のボキは自由が許されてきた。それでも滅多に帰郷しないことを責められたことは一度もない。そうか、ボキは静岡県代表として送り出されているのだ。もっともっと働こう。そして稼いだお金をちゃんと使うんだ。予算は潤沢ではないけれど、たとえばこんなお店に仲間を連れて。「愛妻への恩返しを、楽しみに待ってるぜ」と言う大トラには留守番させて。

Finish! Nice outing!

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